とある東大生の脳内をのぞく

こういうこと考えてる東大生もいるんだなあ

最後のセンター試験を受けるすべての人へ

 

 

 

2019年 1月19日。

 

いつもより1時間くらい遅い時間に鳴った目覚ましで僕は起きて、寝ぼけることなく自分の部屋を出て準備を始めました。センター試験当日の話です。

僕は試験のときに決まってカレーを食べるルーティンがあって、いつものようにちょっと高い辛口のレトルトカレーの袋と水道水を鍋に入れて火をかけました。

 

「子曰、」

 

袋が温まるのを待つ間、そしてその中身を炊きたてのご飯にかけて口に運んでいる最中でさえも、僕は脳内でとある書物の一節を繰り返していました。今日の試験のための最後の悪あがきとか、点数が取れるようなおまじないとか、気合いを入れるための名言とかいうわけではなく。ただただ、とあることを考えながら、漢文のワンフレーズを脳内リピートしていたのです。漢文選択者ならその名を知らない人はいないであろう、かの有名な「論語」からの一節です。

 

「子曰、周監於二代、郁郁乎文哉、吾從周。」

 

 

 

 

あと3点で涙をのんだあの日から始まった、長く仄暗い浪人生活の終わりが始まる、そんな一種のターニングポイントが2019年のセンター試験でした。初めて定期券を持ち、初めて1時間以上かけて都内に通学し、初めて都心の超有名校の人と接して地方と都会の教育格差を知り…ときには優秀な周りに比べて勉強量の割に成績が悪く、だれにもそれを相談できないほど病んで、東大がダメだったら自ら命を絶つことも考えていたくらい、ひとくちでは言い表せないような多種多様な経験をした1年でした。僕ら浪人生にとって、そんな悲喜こもごもの1年の集大成を飾るのが入学試験だったのです。それはこれから受験をする人たちも同じだと思います。浪人生とか現役生とか関係なく。その集大成を飾るまず第一歩が、センター試験であるわけです。

親や周囲の友人などの期待の分どうしても受からないといけないプレッシャー、落ちたときの肩身の狭さを考えたときの後がない気持ち、そういった様々な重荷に耐えながら勉強を重ねてきて、そのすべての努力の成果を出し切るときがもうすぐやってくるのです。当然のごとくだれもがいい点数を取りたい、他の人より高い点数をとって入試で有利に立ちたいと思って受験したと思います。

しかし僕は、いや僕らは、それよりもう少し特別な気持ちで試験を受けました。もちろん僕自身も自分のため、点数を取って入試に有利になるために必死にマークをしましたし、みんなもそうだったと思いますが、僕らは心の片隅に、他の人にはない少し特殊な思いを抱えながら、センター試験の会場に向かいました。

 

それは、同じ予備校で浪人していた高校同期の仲間の訃報が試験の直前に入ったからです。しかも僕はそいつと同じ部活に所属していて3年間けっこう仲良く過ごしていました。彼は僕とは別の最寄りの校舎に通っていましたが、僕が休みの日にその最寄りの校舎に自習しに行って顔を合わせれば普通に話して、お互いの近況を報告し合っていました。特に受験がつらいという素振りは見えなかったし、聞いたところによれば、むしろ成績が良くて志望校との距離もなかなか近いという話でした。そんな明るく気さくなやつが、上手くいきそうだったやつが、センターの一週間前に急にこの世を去ってしまったのです。自分の選択で。

センターの前々日に通夜が執り行われ、大学生も浪人生も関係なく、部活の仲間に限らず、高校同期の数多くが参列しました。面白いやつだったし、部の中でも上手いほうで人に囲まれていることが多かったからそれも当然です。高校同期の喪服姿を見るのがこんなに早くなるなんて、と思いながら僕は式場に向かっていました。3年間わちゃわちゃ部活をやったり、学校の行事にも一緒に参加したりした仲間たちが、今まででいちばん暗い面持ちで集まっているのをお互い確認し合って、俺らの久しぶりの集合がこんな形になるとは…なんてこぼしながら彼を弔いました。

式が終わった後、久しぶりに顧問に集合をかけられ、1年以上ぶりの輪を作りました。卒業する前より1人分だけ小さい輪でしたが。「浪人してるやつはアイツのことも背負ってがんばって来るんだぞ」と、まあ予想していた通りの趣旨の話を顧問は始めました。その顧問も学生時代に同じ予備校で浪人して、国語の教師として僕らの高校で働いていました。それもあってか、浪人した生徒の応援が卒業後も手厚かった(入試の動向の最新情報を部活のLINEで共有したりしていた)のです。

冒頭に出てきた漢文の一節を知ったのは、そんな顧問が輪で話をしているときでした。話の内容は覚えていませんが

「子曰、周監於二代、郁郁乎文哉、吾從周。」

のワンフレーズだけが僕の胸にとどまりました。話の内容を覚えてないくらいですから、たぶんそこまでその話に感動したとかいうわけでもないです。特になにか特別なストーリーがあったわけでもなく、普通にポロッと口にしていただけだったと思います。けど、僕はその一文で彼の名前のルーツに気づいて、その名前に込められた思いが少しだけ分かった気がしたのです。

別に、いちいちアイツのことを背負ってがんばるとか、お前が果たしていたであろうことを残る俺らが代わりに、とかそんな厚かましいことを考えるつもりはありませんでした。ただ、その名前に込められた思いを無駄にしたくないというか、それを潰えさせたくないと思っていました。その文字に込められた思いを汲み取って、僕らが全員でそれに応えるような将来を描きたいと思いました。そのために通るべき、通るはずだった最初の関門が、2日後のセンター試験でした。図々しいことを言うつもりはないから、どうかただ優しく見守っていてほしい。そうとだけ思って、式場を後にしました。

 

 

 

その日の朝、家を出るまでずっとその一文を繰り返していました。特に意味はなく、ただなにかを感じるもの。お守りみたいなものでした。

 

「子曰、周監於二代、郁郁乎文哉、吾從周。」

「周は(夏と殷)二代の礼楽制度を参考にして取り入れた。だから周のそれは華やかで立派である。私は周の礼楽制度に従う。」

 

「華やかで立派である」

それを表すたった3文字のためだけにずっと繰り返していました。その思いを汲み取るために。僕らがそれを実現するために。僕にできることはそれしかありませんでした。準備をして、家を出て、いよいよ始まるという気持ちに駆られるまで、ずっと。

ちょうど1年前の今くらいの話です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ということで、ここまで昨年を回顧して自分が書きたいことを書きました。実際に起こったことだし、実際に僕がそう思っていたことです。ちょっとどころかだいぶクサいことを当時の僕は考えていましたね。浪人中は過剰にエモーショナルになって精神が安定しないのでああいう感じになってしまうんですね。

気を取り直して、ここからはきちんと明日からセンター試験を受ける受験生の読者様に向けてメッセージやアドバイス(?)を書きたいと思います。

 

この記事はおそらくセンター試験前日のお昼くらいに投稿されているでしょう。だれもが明日の試験に向けて最後の仕上げをし、夕方には家に帰ってコンディションを整えているところです。僕は試験や試合の前日、緊張するのか知りませんがいつもの5000兆倍くらい寝付きが悪くなります。おそらく理由は気合いが入りすぎてアドレナリンが過剰に放出され、それが入眠を阻害するからでしょう(わいあーる調べ)。同じような経験をこれまで何度かしてきた人もいるのではないでしょうか。したがって僕は前日の夜はいつもに増して「いつも通り」を心がけます。起きたら試験だから悪あがきをして勉強するとか、ましてトンカツを食ってみるとか言語道断です。今からでも遅くないですから、親が気合いを入れてご飯を作ろうとしている人は土下座をして献立を変更してもらいましょう。そしてお風呂に浸かって部屋に戻ったらいつもやっていることをやるのです。ちなみに僕はいつも家に帰ったら一切勉強せずにスマホをいじって寝てました。もちろん昨年もそうしました。みなさんは何をしていますか?え?恋人と電話?それはしたほうがいいですね。いつもの声をきいてリラックスして眠りにつきましょう。長電話はほどほどにして睡眠時間は確保してくださいね。寝落ち通話して翌日寝坊しろなんて思ってもいませんから大丈夫です。

まあ、もっとも、緊張を和らげる一番の方法は「これまで勉強を積んできた自分の実力を信じて、センターなんて余裕さ!というくらいの心持ちでいる」ということです。昨年の僕はそうでした。センター試験は2次試験の通過点。不合格になってから1年間、センターのためじゃなく2次のために勉強してきたんだから、足切りされなければ多少はセンターで失敗しても痛くねえよ。と思ってました。そもそも、明日失敗することを考えても48時間後にはセンターは終わって、また別の戦いが始まるのです。嫌だとしても、2日後の今は別のことを考えているのです。今ここでその2日間のことをどれだけ憂いても終わってしまえば後の祭りです。目先のことに怖がらずに、もっと先を見据えて「自分が本当に目指しているのはどこなのか」を考えて思考を改めるべきです。実際昨年の僕はこれで緊張することなくぐっすり寝られたのでこの効果は実証済みです。ちなみにこんな偉そうにモノを言っている僕の昨年のセンターの出来栄えはこちら

 

まあセン利で入試を決めようとしている人はそんなことも言ってられないと思います。特に私文はボーダーがインフレしていますから、少しのミスも許されない状況でしょう。

けど大丈夫。あなたはこの1年間、折れそうなときもあったけど、いろいろな誘惑に耐えながら勉強を続け、自己研鑽を積み重ねてきました。入学試験に立ち向かうのに実力が足りているとは到底言えなかった昨年の自分とは、目を見張るほどちがう。昔の自分が小さい…!

 

そう思えるように努力してきましたか?

 

 

 

現行の制度で最後のセンター試験。何が起こっても変じゃありません。けど、どんな傾向にでも対応できる実力と覚悟を身につけてきたみなさんなら怖いものはありません。

今のみなさんが持つすべての力を遺憾なく発揮できるように

みなさんが今年の春に笑顔でいられるためのキッカケをつかめるように

私わいあーるは、願っております。

 

 

いよいよそのときです。輝かしい3月を迎えるための大きな第一歩。

全力で戦ってきてください。また近いうちにお会いしましょう。

 

 

 

 

 

 

 

P.S.

冒頭に書いた「試験のときに決まってカレーを食べるルーティン」について詳しくはこちらの記事をご覧ください。

 

 

 

 

 

 

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